ep.1

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 彼の熱弁を受け流しながらポン、とデスクトップ画面に通知されたチャットの内容を見て、御堂は先ほど渡されたパンフレットに目を戻す。  チャット画面を開くと、メッセージの相手はこの製薬会社の心臓部分でもある薬事開発研究部の、さらに研究に特化した薬事研究課に所属する職員からだった。 ≪展示会の話、こちらの部長から聞きました。力不足かもしれませんが、僕が同行します。≫ (部長、話を通すのが早いな……。てか、三神峯(みかみね)さんが来てくれるのか。……そうだ、今度の展示会、諏訪を連れていくか)  展示会とはいえ、営業に専門職が同行してくれることはなかなかない。これは彼にとってもいい刺激になるだろう。  研究課の職員、三神峯景(みかみねけい)とは直接会ったことはないが、医薬品のフィードバックでよくやりとりをしている。彼は臨床や製造には関わらないのでメインではないのだが、丁寧にこちらのフィードバックを受けてくれるものだから印象はかなり良かった。 ≪よろしくお願いします。こちらは部下を一人連れていきますが、薬事研究課からは三神峯さんおひとりですか?≫ ≪その予定です。展示会で出す商品を知っておきたいので打合せをしたいのですが、研究が重なっていて時間を調整するのが難しそうで……。≫  こちらが同行をお願いしたにもかかわらず、時間が取れずすみません、と謝罪の言葉を続けた彼の丁寧さに、逆に申し訳なさが募る。そもそも彼らは研究職なのだから、研究で忙しいのは当たり前だ。 ≪こちらこそお忙しいところすみません。事前に資料をお送りします。もし都合がつくとき連絡ください。僕たちは調整つきますので、打合せできればと。≫ 「……三神峯さん、ね」  御堂は確認するように、彼の名字を独り言ちた。
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