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「でも、御堂さんに触られるのは嫌じゃなかった」
三神峯は御堂の謝罪に重ねるように声を大きくした。
「……先ほど、マスターに教えてもらったんです。最後に僕に勧めてくれたアプリコットフィズ、あの意味は――」
先程バーテンダーに呼び止められていたのはこのことを言われていたのか。バーテンダーもお節介を焼くものだ。
「本当だよ。俺は三神峯さんに振り向いてほしい。……でも、困らせるつもりもないから、俺が諦めるまで好きでいさせてほしい」
(御堂さんは――……)
三神峯とて、御堂のことを信用していないわけではない。御堂が真剣に言葉をぶつけてくれるのもわかっているし、完全に酔ってる、とは言っているものの、決して一時の酔いの勢いで言っているわけでもなさそうだ。
何よりも御堂から敬語が抜けたせいか、言葉が直接三神峯に刺さってくる。
「……三神峯さん、もし俺のことが気持ち悪くなければ、名前で呼んでほしいし、敬語はやめてほしい」
「…………」
部署が違い、主任とはいえ御堂は肩書きのある人間だ。彼を馴れ馴れしく呼び捨てにするのも気が引ける。彼の肩書きは常に横柄な態度を取られる三神峯の直属の上司を彷彿とさせるからだ。
「あ、嫌なら強要はしないし、……仕事中には持ち込まないから。忘れて」
なかなか答えられない自分を見兼ねてか、御堂はそう言い直して踵を返した。やっぱこの時期は寒いですね、と言葉を続けて。
(……ここで、俺が逃げたら二度と一緒になることは……)
「御堂さ……っ、和樹!」
「!」
正直三神峯の気持ちの整理はついていない。だけど、このまま返事を有耶無耶にして御堂が離れていってしまうのも嫌だった。三歩先で足を止めた御堂に三神峯は必死に言葉を繋ぎ止める。
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