ep.1

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* * * 「御堂主任、本当に俺が来てよかったんですか……」 「なんで今から緊張してるんだよ。別に諏訪に全部押し付けようだなんて考えてないし、勉強だと思って見ていればいいよ」  新大阪駅の新幹線ホームで、諏訪は情けない声を出した。  あれから展示会には諏訪を連れていくと課長や次長、部長に報告をすれば本当に大丈夫なのかと苦言を呈されたが、今回は専門職も付くし、経験のためにも必要なことだと押し切ればしぶしぶと了承してくれた。  上層部も期待をしている展示会だと言っていたから、同行させるのであればもう少し成績の良い社員の方が安泰だろう。だが、どうしてもそうはしたくなかった。 「ところで、開発課の方は?」 「んー、今日来てくれるのは薬研課な。三神峯さん、忙しいらしいから会場で会うつもり」 「そうなんですね」  結局、三神峯とは直接会って打合せをすることは叶わなかったが、事前に送った資料は確認してくれていたようで、この製品はこの効能が長けているからもっとここを魅せた方がいい、などとチェックを入れてくれた。  御堂自身、三神峯と一緒に仕事ができることに楽しみを隠せない。チャット上のやり取りだけでも彼がかなりの知識をもっていることが伺えた。実際に展示会の場で仕事を共有すれば、諏訪にはもちろん、御堂にとっても勉強になるだろう。 「おー! 御堂さん! お会いしたかったです!」 「ああ、ご無沙汰しております。すみません、先に準備お任せしてしまって」  展示場内のブースに行くと、関西支社の同じ営業部の社員がすでに設営の準備に取り掛かっていた。関西支社の営業部には以前本社で御堂と一緒に仕事をしていた社員もいて、このメンバーなら諏訪も気を張らず展示会に集中できると少しだけ安堵する。ここで張りきった関西支社長が出てきたとしても、展示会としてはいいかもしれないが現場がぎこちなくなってしまうだけだ。
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