ep.5

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「景、今どこに」 『……違うんだ。声、聞きたかっただけ。ちょっと嫌な夢見ちゃって。ごめん、こんなしょうもないことで電話しちゃって』 「今どこにいる? 外だよな?」  夢を見た、なんて嘘だ。御堂はそう確信した。強がる三神峯を諭すように、少しだけ口調を強める。 「景、俺は迷惑なんかじゃないよ。むしろ今電話してきてくれてることも嬉しい。それだけお前は、俺を頼ってくれてるんだろ」 『……っ』 「ね、大丈夫。だから教えて。今どこにいる?」  今度は優しく、宥めるように三神峯に問いかけた。御堂のその言葉に三神峯は言葉を詰まらせ、ガラガラと転がしていたスーツケースであろうの音が止まった。  何度もためらったあと、三神峯は小さく呟く。 『……今、ちょうど東京駅の近く』 「――わかった。寒いだろうから駅入って待ってて」 『えっ、そんな……』  電話越しに三神峯が慌てていたが、そんなことはお構いなしに家を飛び出した。とにかくそっちに向かうから駅で待ってて、と何度も念を押して御堂は自宅の最寄りの駅に向かう。こちらの気迫に折れた三神峯が駅にいると渋々答えたのを聞いてから通話を切った。
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