ep.5

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(冷静になれって……。電車に乗るよりタクシーの方が早いか)  そう考えた御堂は駅でタクシーを捕まえると急ぎで東京駅に向かうよう指示をした。タクシーの運転手がそんなに急いでどおしたのぉ、と悠長に話しかけてくるものだから今世紀最大の危機なんだ、と適当に話すと、夜勤なのか早朝からの勤務なのかテンションが高い運転手は幸いにもノリがよく、東京駅まで飛ばしてくれた。  彼女さんのこと大事にするんだよぉ、と降り際に言われたのが少しだけ悔しいかった。 「景!」 「……あ、和樹……」  とにかく広い東京駅で三神峯をすぐに見つけられたのは彼が一層目立つ容姿だからか、それともそんな気がするだけか。  東京駅はさすがに午前6時前の早朝でも結構の人がいた。旅行客も多く、三神峯と同じようにスーツケースを持っている人がたくさんいる。壁に(もた)れて立っていた三神峯に、タクシーに乗る前に買っていたあたたかいペットボトルのお茶を差し出す。 「お疲れ様。昨日の展示会、ありがとうね」  昨日と同じスーツ姿のままなのも、スーツケースを持ったままなのも御堂は何となく察した。三神峯の目の下にはくっきりと隈が出来ているし、左頬が心なしか赤く腫れている気もする。三神峯は御堂からペットボトルを受け取ると、泣きそうに顔を歪めた。 「っ……和樹……」 「……もう、大丈夫だから」 「和樹……!」
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