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展示会中、どんなに二人きりになっても名字呼びが抜けなかった三神峯。急に名前を呼ぶなんて照れくさいと言っていた彼が、御堂に縋るように名前をくり返した。蹲る背中を抱きしめて安心させたいと思ったが、さすがに公衆の面前で抱きしめるのは三神峯も嫌だろう。御堂は三神峯の背中をゆっくりと擦る。
「大丈夫、大丈夫だから」
大丈夫と繰り返すも、根拠はまったくない。何に対して大丈夫だと言っているのかもわからない。それでも少しずつ、三神峯は落ち着きを取り戻す。
数分して御堂に支えられて立ち上がった三神峯は、少しだけ安堵の表情が浮かんでいた。
「……ごめん、もう大丈夫そう」
「歩ける? 景の家、どの辺?」
「……茅場町。ここから歩いて15分くらい……」
「そか、じゃあ家に帰った方が早いな」
「嫌、離れないで……」
服の裾を掴んで上目で強請るのはずるい。抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて彼の左頬を撫でる。
「離れないよ。景の家まで送るから」
「……うん」
「スーツケース持つよ。貸して」
「……うん」
疲弊しきっている三神峯を歩かせるのもいかがなものかと思いタクシーに乗せるか電車で一駅乗るか悩んだが、結局歩きを選んだ。その方が何か話してくれるかもしれないと思ったからだ。
御堂の読みは当たり、東京駅を出て少し歩くと三神峯がぽつりぽつりと話し出した。
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