ep.5

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 絆創膏が貼られていると言ってもただの応急処置に貼っただけの様子で、痛々しい切り傷が見えているし、絆創膏には血も滲んでいる。三神峯はずっと左手を隠すようにしていたことを、今さらになって御堂は気づいた。 「これ、どうした? 展示会のときはこんな傷なかっただろ」 「あ、えっと……昨日、割れた試験管を片付けようとしてたらバランス崩しちゃって、うっかり手をついたら……」 「うわ……」  それは痛い。想像しただけで何ともない左手が痛む気がするほどだ。無理に触ってごめんね、ともう一度謝れば、三神峯は首を傾げて和樹が謝ることじゃないよ、と言った。なんとなくその様子に違和感を覚えたが、それ以上詮索はしなかった。  それから少し歩いたところのマンションの前で、三神峯は足を止めた。 「ここだよ。送ってくれてありがとう」 「……本当に大丈夫?」  このまま三神峯を一人にしていいものなのだろうか、御堂は自分に問いかける。まだ不安定な気もするが、疲れている三神峯をこれ以上どこかに連れ出すことはできないし、家に上がり込むなどという厚かましいこともできない。三神峯にはゆっくり休んでほしい。 「大丈夫。色々ごめんね、ありがとう」  三神峯は名残惜しそうにスーツケースを持つ御堂の手に重ねて言葉を続ける。
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