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ep.5.5
※当エピソードでは少しですが暴力・暴言の表現があります。
19時半過ぎ、一足先に東京に戻ってきた三神峯は家に帰ることはなく会社に直行した。
展示会の終わり際、数分単位で着信が入っていた見慣れた直通番号に折り返せば電話の相手は中田からだった。いい加減戻ってこい、いつまでそっちにいる気だ、そんな罵声だったと思う。行ってこいと押し付けたのは誰なんだと思いつつも嫌な予感が拭いきれず仕方なく御堂に謝り、展示会が終わる前に大阪を出た。
「……え、これ、まだ終わってなかったんですか? 僕、一昨日手順を全部引き継いで行きましたよね?」
「中田主任が手を付けるなと言って……。それでも昨日青山副リーダーが遅くまで残って進めてたみたいなんですけど、今日体調を崩して休みで、確認もとれないんです……」
戻ってきた三神峯は研究の進捗状況を見て、眩暈すら感じた。三神峯が出張に出る前からほとんど進んでいないのだ。
(手を付けるなってどういうこと……。研究の進捗状況は部長にも共有してたのに……)
痛む頭に思わずこめかみを抑えてため息をこぼせば、進捗状況を尋ねたチームメンバーがすみません、とばつが悪そうに俯く。
「……わかりました。今から僕が進めます。飯田さんは報告書に使う過去5年分のデータの整理お願いしてもいいですか?」
「はい」
三神峯はそう言いながら、スーツのジャケットを脱いで白衣に袖を通した。
チームメンバーは三神峯より年上の社員が圧倒的に多く、研究の仕事を振り分けるのも実は苦労している。本当はこの展示会で若くして主任に就任した御堂に年上部下にどう接しているかも聞いてみたかったが、あの忙しい展示会にそんな時間はなかった。
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