ep.5.5

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「そういえば、部長や次長は?」  研究に入る前に挨拶をしておかなければとフロアを見渡しても、部長や次長の姿が見当たらない。普段ならこの時間はまだ残っているはずだ。すると飯田はそうだった、という表情を浮かべて口を開いた。 「今日は外部会議だそうで、そのまま直帰するらしいです。課長は用事があると帰って、係長と主任は分からないです」 「そうですか……ありがとうございます。じゃあ僕、研究室にいるので何かあったら呼んでください」  飯田にはそれだけを伝えて、ガラスで仕切られている研究室へ向かった。  部長も次長も、昨年まではすべてを丸投げするような人ではなかった。どちらかというと親身になってくれる人だったが、今年度に入り係長と主任が変わってからは二人も変わってしまった。変わったのか、波風を立てないように何も言わないだけなのか。 (研究は好きなんだけどなあ)  上司だけでなく、課全体の雰囲気も変わってしまった、と思う。常にピリついた雰囲気や、右とも左ともつかない優柔不断な雰囲気。社員が辞めていくのも分からなくもない。  係長と主任――坪沼と中田が三神峯を嫌っていることは三神峯自身すでに気づいている。二人の態度は三神峯にだけ横柄で、とにかく理不尽な要求ばかりする。何よりも研究に手を付けなくていいなんていうのはもう確信犯だ。たしか今年の4月に、チームリーダーを任されているのが気に入らない、と課長に言っていた気がする。 (はあ……胃が痛い)  三神峯は胃を擦りながら機械に入れていた試験管を取り出す。残されていたメモを見る限り副リーダーである青山が少しは進めてくれていたようだが、それも1日そのままにされてしまっては正しい結果が取れないため、結局やり直しだ。 「お前さあ、その試験管どうするつもり?」
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