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「いいんですよこれくらい。それより御堂さんの成績の話はこっちまで聞こえてきますよ。さすがですね!」
「はは、ありがとうございます。……そうだ、今回ご一緒させていただく、部下の諏訪です」
「諏訪優斗です。よ、よろしくお願いします!」
「諏訪、ごめん、先に設営手伝ってて。俺受付でパンフレットもらってくるわ」
「はい!」
その場を諏訪に任せて展示会場外の受付に向かう。開場前の今は関係者しかいないはずだが、規模が大きいだけあって人がとにかく多い。
と、思わずスーツケースを引いた男性にぶつかってしまい、男性が持っていた書類が音を立ててその場に散らばってしまった。
「あっ、すみません」
一瞬女性か男性か区別がつかなかったが、男性もののスーツを着ているからおそらく男性なのだろう。
陽の光に溶けてしまいそうな色素の薄い髪の色が目に入る。見慣れた青ラインの入った社員証を下げていた。彼が落としてしまった書類を半分拾い上げたまま、思わずその場で立ち止まる。
「いえ、こちらこそ……」
『あ? 聞いてんのか!?』
男性は電話をしていたらしく、電話越しの声が丸聞こえだった。スピーカーフォンにしていたわけではないだろうに随分と声の大きい相手である。書類を半分持ったまま、整えることもなく彼は電話の相手との会話を続けていた。御堂自身も早々に書類を彼に渡してしまえばいいのだが、何となくその場を離れられなかった。
「ですから、その資料は昨日のうちにまとめてチャットで共有しています。中田主任と坪沼係長の机にも置いています」
『俺が内容知らなかったから課長に変に思われただろうが! どうしてくれるんだよ!』
「……すみません」
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