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(……あ、刺さった、かも)
痛い、などという声は出なかった。
刺さったのだと理解するまでどのくらいだっただろうか。じわりと血が滲みだしてから、重苦しい痛みが脈を打つ。そこで初めて、刺さったことを理解した。
(どうしよう、刺さったときって抜いていいんだっけ)
しばらくぼんやりと傷を見つめていたが、いつまでもこんなことをしていられない。この時間すらももったいないと我に返って立ち上がる。
流水で血を洗い流しながらガラスを丁寧に取り除いていると、これまで立ち尽くしていた中田がようやくあざ笑うように口を開いた。
「は、馬鹿じゃん。それ、お前の不注意だから」
「そう、ですね。わかっています」
あくまでも彼は、三神峯のことが嫌いのようだ。
三神峯自身のせいということはこれ以上この傷には触れるなということであり、もちろん誰にも言うなという牽制も含まれている。そんな牽制をしなくても、言いふらす気すら起きないが。
「じゃ、月曜の朝までに結果報告できるようにまとめて。もうそのときに一緒に開発課に報告する算段だから」
「月曜の朝に開発課に報告、ですか? もうこんな時間ですし、さすがにそれは……っ」
去り際に無理なスケジュールを提示した中田に、三神峯は慌てて口を開く。今日は金曜日で、時間ももうまもなく20時を回るところだ。どんなにスケジュールを組み直しても課内での承認すら通っていない研究が開発課に報告ができるまで仕上がるとは思えない。
これは三神峯の、精一杯の抵抗だった。
それを聞いた中田は舌打ちをしたと思えば、もう一度三神峯を殴ってきた。
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