ep.5.5

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「……っ! 痛……」 「何、お前は口答えできる立場なの? こんなの帰らなきゃ出来るだろ。はっ、ていうか帰るつもり? こんなに遅れを出してるのに?」  構えもしなかった暴力の衝撃で三神峯は頭を実験台の水道に強く打ちつけ、痛みでしばらく動けなかった。気分屋の暴力にもほどがある。  正直なところ、研究に遅れが生じているのは中田や坪沼の気分で立案間近の研究報告をすべてやり直しになったり、承認を得て開発課に上げるだけの研究のデータを課内の社員が誤って消してしまったりしたせいだ。  それがすべて三神峯のせいになっているのだから、三神峯が課内のすべての責任を背負っている、と言っても過言ではない。 「……っ、いえ、ご報告できるように進めます」 「だったら最初からそう言えよ」  中田はそれだけを吐き捨てると研究室を出て行った。  頭の痛みよりも中田から解放されたことに少しだけ安堵し、三神峯は脈打つたびに痛む左手にハンカチを巻いて再び試験管を片付け始める。  破片をすべて新聞紙に包んだところで研究室から坪沼と中田が帰る準備をしていたのが見えたが、この後に続く仕事の量を考えると、理不尽な要求をする彼らも痛む頭も左手も気にならなかった。
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