ep.5.5

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「……和樹……」  中田の機嫌が悪くて当たりが強いことは日常茶飯事だ。だけど少しだけ涙ぐみそうになるのは、きっと御堂が与えてくれる安心感を知ってしまったから。どんな些細なことでも自分のことのように心配してくれる彼を、今も心のどこかで求めている。 (でも、もうなかなか会えないだろうし、そもそも部署が違うんだから頼っちゃいけないよね……)  伝えてくれた御堂の気持ちは嬉しいかったが、彼のことを想えば想うほど、あの時は答えを口にすることはできなかった。  御堂は高身長で顔も整っていてスタイルは抜群。おまけに仕事ができて優しくて頼りになって、面倒見がいい。そんな彼を周りの女性が黙って見ているだけのはずがないだろう。だからこそ彼は自分ではなく他の女性の方が幸せになれるのでは、と三神峯は思ってしまう。  我慢をした痛みは、彼の優しさを思い出してさらに強くなった。これ以上彼に触れたら、きっともう戻れない。  ――それでも。 (会いたい、……助けて)  それでも、もう一度彼の声が聞きたい、と思ってしまうのはわがままだろうか。
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