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* * *
(どれくらい寝てたんだろう……)
再び目が覚めると窓から差し込む日差しは先ほどよりも強くなっていた。青空が一層濃くなった気がする。
右手に違和感を覚えて視線を移せば、右手を握ったままベッドに突っ伏すようにして御堂も眠っていた。
(……ずっと、そばにいてくれたのかな。昨日まで展示会で疲れてただろうに、悪いことしたな……)
展示会で一番動いていたのは御堂だった。来場者の対応も受注をしていたのもほとんどが彼だったし、簡単にこなしているように見えてきっと人一倍気を遣っていただろう。来場者だって、好感触の相手ばかりではなかったのだから。
「和樹、ごめんね、……ありがとう」
右手を強く握り返して包帯の巻かれた左手で御堂の髪に触れる。
こんなに至近距離で見たのは初めてかもしれない。整った眉毛も長いまつ毛も、毛穴一つとして目立たない綺麗な肌も全部ひとり占めしたい。休日だからか朝早い時間だったからか、セットされていない無造作な髪も、すべて。
初めて会場で会ったときから、本当はきっとずっと惹かれていたのだ。
何も言わずに背中を擦ってくれた手に、気遣ってくれたこと。部署が違って展示会が終われば関わることがないような関係なのに、自分のことのように心配してくれたこと。
東京駅で彼の姿を見たとき、どれだけ安心しただろう。
あの日あのとき、彼に好きだと言われなくても、きっと自然と彼を好きになっていた。
(和樹のことが、……好きだ)
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