ep.6 *

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 御堂は三神峯にたくさん言葉をかけてくれた。それなのに自分は、あれから御堂に好きだと一言でも言ったことがあるだろうか。  彼はいつまでも待つよと言ってくれたが、御堂のことを考えて、と(ずる)い言い訳を繰り返し、彼に甘えるばかりで何も返せていないのではないだろうか。 (これから先も、ずっと和樹に甘えるつもり?) 「景……?」 「あ、和樹……」  目を覚ました和樹が瞬きを数回した後、心配そうな表情を浮かべると三神峯の頬に触れた。 「どした? どこか痛い?」  親指で目元を拭われて初めて、また涙がこぼれていることに気づく。きっとこの涙は、御堂が心配するようなものではない。三神峯は御堂の手を取って頬に寄せた。 「……違う、違うよ、和樹。和樹がいることに安心しちゃったんだ。……ありがとう」 「――……景」  御堂は噛みしめるように名前を呼んで、何か言いたげな三神峯の言葉を待った。  今伝えなければ、いつ伝えるんだ。意を決して、三神峯は言葉を続ける。 「ずっと言えなくてごめんね、  ……和樹のこと、大好きだよ」  御堂はきゅう、と愛おしさに胸が締め付けられた。思わず彼の右手を両手で包み込むように握る。言葉の続きを、祈るように。  三神峯は声を震わせて言葉を続けた。 「だから、俺と、付き合ってください」 「っ、景……!」  思わず三神峯を抱き寄せて首筋に顔を埋め、三神峯の存在を確かめるかのように強く抱きしめる。三神峯は慌てたように御堂を押し返そうとした。 「わっ、か、和樹、俺、さっき会社出る前に歯は磨いたけど昨日シャワーしてないから汚いよ……」 「汚くないよ。大丈夫、むしろ景の匂いが濃くて堪らない」 「それはそれで……」  まだ腕の中で三神峯は戸惑いを隠せていない様子だったが、そんなこと微塵も気にならなかった。御堂は三神峯を解放し、そのままベッドに乗り上げる。ギシ、と鳴ったスプリングの音がやけに部屋に響いた気がした。
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