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(随分とひどい言いようだな……)
電話の相手は随分とご立腹のようで、どう聞いても理不尽な言いように御堂は眉を潜める。内容を知らなかったのは自分の確認不足のせいで、目の前の彼のせいではないだろう。正義感の強い御堂は、個人の感情や持論で部下や後輩を陥れることを何よりも嫌っていた。
『だいたい、スケジュール管理ができなくて遅い時間に共有するのが悪いんだろ! これだから三神峯は使えねぇんだよ! 使えねぇくせにチームリーダーなんて任されやがって……』
三神峯。
電話越しに聞こえてきたその名前に、彼が提げていた社員証に目を向けた。
――共立ファイン株式会社。薬事開発研究部 薬事研究課(薬剤師)。
――三神峯 景。
社員証には、そう書いてあった。
「……三神峯さん」
「えっ……?」
思わず彼の名前を口に出すと、驚いたようにスマートフォンを耳から離す。いつの間にか電話は切れていた。
「すみません、突然。今回展示会でご一緒させていただく営業部の御堂です」
「あ、そうだったんですね。遅くなってすみません、朝に会社に顔を出してきたもので……。薬事研究課の三神峯です、よろしくお願いします」
改めて顔を見ると、三神峯は色素が薄いせいか肌も白い。だけどまつ毛は異様に長くて顔立ちが整っている。どちらかというと体格も華奢な方で細く、かつて付き合っていた彼女もこれくらいの背丈だったことを思い出した。
三神峯は申し訳なさそうに言葉を続ける。
「あと、直接打合せができずすみません。研究がうまく片付かなくて……というのは言い訳がましいですけど」
「ああ、いえ、研究は三神峯さんの業務ですし、そもそも同行自体、こちらがお願いしたのですから気にしないでください」
「……それなら、よかったです」
ふわりと表情を緩めた三神峯に、思わず見惚れてしまう。男性のくせに美人という言葉が似合う人がいるんだな、と心底思った。
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