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痛みの底から引きあげてくれるのは、いつだって御堂の存在と、その優しい声だった。
いつもの自分であれば治まるまで一人で耐えただろう。耐え切れず体が勝手に動いたのは、きっと御堂が与えてくれる安心感に触れたからだ。
「和樹……っ」
「っと、景? 危ないよ。どうしたの?」
「和樹、こっち……」
三神峯はキッチンまで駆け寄り、フライパンでフレンチトーストを焼く御堂の腕を思わず掴んだ。まるでこっちに来て、とわがままを言う幼子のように。腕を掴んだ理由はない。こっちに来てほしいというわけでもない。何がしたいかなんて、三神峯が聞きたいくらいだ。
御堂は一瞬だけ首を傾げていたが、すぐに心配そうな表情を浮かべるとフライパンの火を止めて三神峯を抱き寄せた。
「……傷、痛い?」
御堂の問いかけは優しくて、隠そうと思う気持ちもうまく隠せない。三神峯は頬の湿布に触れながら、御堂の肩口に顔を埋めた。何度もそのスウェットに顔を擦り寄せる。
傷が痛むというより、これはきっと。
「……痛い」
「……そっか」
「でも、痛いっていうよりも、……和樹と離れたくない」
「――……」
「和樹にこうしててもらわないと、傷は痛むし、嫌なことばっか思い出すし、どうしていいか……、んっ」
不意に御堂の唇が三神峯の口を塞いだ。柔らかい唇が何度も角度を変えて押し付けられる。御堂の舌が入ってくるかと身構えたが、触れるだけで離れてしまった唇に少しだけ物足りなさを感じてしまった。
「ん、あ……かずき」
「……あー、俺、景にこんな怪我をさせて泣かせるような奴、一回殴らなきゃ気が済まないってずっと腹立ててたけど、そんなかわいいこと言われたら全部吹き飛んじゃった」
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