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* * *
「……景」
「なあに?」
ガラガラとスーツケースを引きずる音に紛れそうな声で、御堂は三神峯の名前を呼んだ。
あれから御堂の家の近所を散歩したのはいいものの、散歩から帰ってきてからお互い我慢が出来ず、もう一度ベッドで体を重ねた。三神峯の体を気遣ってか御堂は最後まではすることはなく、お互いのものを擦り合わせるだけだった。それでも十分満たされたが、最後までしてほしいと思ってしまったのは少しだけ、内緒だ。
「今度、時間が取れたらどこかに行こうよ」
「昨日言ってたクリームソーダのお店?」
「そうそう、そこもね。景と一緒に行きたいところが結構あるよ」
すっかり綺麗に洗濯された下着やワイシャツ、皺にならないようにとハンガーにかけてあったスーツ。家に帰ったら食べるようにと、フルーツの缶詰も渡されてしまった。
御堂は甘えてほしいと何度も三神峯に言ったが、御堂が思っている以上に甘えさせてもらっている。今だって彼の家の最寄り駅まで送ってもらっているところだ。
「……ごめんね、本当は家まで送ればいいんだろうけど」
「そんなことないよ。ここまで送ってくれてありがとう」
「じゃあ、くれぐれも体に気を付けてね。左手、今日も消毒するんだよ」
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