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まさかそんなことを切り出されるとは、思わず三神峯は間の抜けた反応をしてしまった。仕事がどう、という質問はあまりにも今更ではないだろうか。上手く言葉が見つからずにいると、課長は気まずそうに笑う。
「いや、ごめん、ちょっと総務部と人事部から三神峯くんの残業時間を指摘されてしまってね」
(ああ、そういうことか)
たどたどしい取り繕いに、三神峯は正直言って落胆した。
見ていただろう、あの手につかない企画書の山を。知っていただろう、研究が遅れていると開発課からも指摘が入ったことを。
それでも知らぬ存ぜぬを貫き通して展示会に行くように指示をしたのは課長を含めた上の人たちだ。展示会の話は大方中田が自分に行かせるように言ったことを三神峯は何となく気づいていたが。
三神峯は角が立たないように適当に言葉を取り繕う。
「……すみません、今実験が重なっていて、なかなかうまく進まなくて」
「そう……。実験の方針なら中田くんと坪沼くん、彼らを頼るといい。一応役職付きだからね。少しでも仕事を分散させて、君だけに仕事がいかないように。彼らには私から言っておくよ」
「……ありがとうございます」
「三神峯くんも、声をあげていかないと。じゃあ、今日はなるべく早く帰るんだよ」
課長はそれだけを言うとそそくさとその場を去っていってしまった。それほどまでに周り見られたくなかったのだろうか。
(声、あげていかないとって言われても)
三神峯もすぐに戻って仕事の続きをしようと腰を上げたが、眩暈を感じて立ち上がるのをやめた。ここ数日、まともに寝ていないからきっと寝不足のせいだ。そう考えながら額に握った両手を当てて、深呼吸をくり返す。
(和樹、怒ってるかな……)
御堂から何度も連絡が来ていたことは気づいていた。しかしこの激務のせいで返信をする余裕どころかメッセージを見る余裕すらなく、すっかり放置してしまっている。
それに、今御堂の優しさに触れてしまったらもう二度と立ち上がれなくなってしまいそうな気がするからだ。
「三神峯、そこでなにサボってんの?」
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