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「中田主任」
眩暈が落ち着いたところでプライベート用のスマートフォンを取り出すと、タイミング悪く談話ルームの前を通りかかった中田に声をかけられた。
「ちょうどいいや、話あるんだけどいい?」
「……はい」
何を言われるのだろうか、と思いながら三神峯はプライベート用のスマートフォンを自分の手元に引き寄せる。
中田は三神峯の座るテーブルに近づき、向かい側に座った。珍しくその表情はいつものような見下したような表情ではなかった。
「……なんか、ごめん。いつもお前に仕事振りまくってて」
「――……」
中田の言葉に、三神峯は言葉が出なかった。普段暴言や暴力が日常茶飯事だった中田から謝罪の言葉が出るとは思わなかった。そんな彼に戸惑っていると、中田は言葉を続ける。
「青山も辞めちゃったけど、これからはなるべく三神峯だけに仕事が回らないようにするよ」
「そんな、中田主任」
「ごめん、三神峯がいないと研究課は回らないんだよ。だからつい三神峯ばっか頼ってしまうんだよね」
「……いえ、僕こそ、なかなか期待に沿えずすみません。早く今の報告もまとめて……」
申し訳なさそうに眉を下げた中田に、三神峯も頭を下げる。
中田も、もしかしたら色々と考えたのかもしれない。これまで彼にされてきたことを全て水に流せるほど三神峯もできた人間ではないが、向こうが変わろうとしているのであれば話は別だ、と思う。
――すると、チッ、と小さく舌打ちが聞こえた。
「なんて、言うと思った?」
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