ep.7

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 軽い水音を立てて、置いていたコーヒーがテーブルを汚したのが視界に入った。茶色の液体が、三神峯のプライベート用のスマートフォンを濡らしている。テーブルからあふれたコーヒーが三神峯の白衣を汚した。  熱さよりも、驚きの方が隠せなかった。 「――え」 「俺がそんなこと言うと思った? 所詮知識に毛が生えた程度なのにたまたま10年間滞ってた研究を成功させたからってリーダー任されて目障りなんだよね。……なあ、誰に連絡しようとしてた?」  滴り落ちるコーヒーを見て弾かれたように顔を上げると、その先にあった中田の顔から表情が消えていた。凍てつくような表情にぞくりと背筋に悪寒が走る。  白衣を引っ張って引き寄せて、中田は三神峯の耳元で低く囁いた。 「……営業一課の主任、だっけ。たしか御堂って言ったかな。あいつに何吹き込まれた?」 「っ、御堂さんは関係ないですよね……!?」 「見てたんだよね、お前が御堂と会ってるとこ。臨床部とか製造部だったらまだしも、研究課(うち)と営業部はほぼ関係ないだろ。それに展示会から帰ってきてからお前がよく反抗するようになったし」 「……っ」  御堂と会ったのは先日展示会から帰ってきてからの一回きりだ。それにあの日も二人で外に出たのは東京駅から家まで歩いたことと、次の日朝に散歩に出かけたことと、帰りに御堂の最寄りの駅まで送ってもらったくらいである。  いずれも30分にも満たない時間に、たまたま見かけることの方が難しいだろう。
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