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そう吐き捨てて談話ルームを出ていった中田に、三神峯は下品な話だと内心呆れながら談話ルームに置かれていたウェットティッシュを取り出す。
本当なら怒りでも湧いてくるのだろうが、疲弊し切った体には彼から解放された安堵のため息しか出てこなかった。
スマートフォンにかかったコーヒーを丁寧に拭き取り、ようやく御堂に返信ができるとホームボタンを押した。
「え、嘘……」
コーヒーで濡れたスマートフォンは防水を謳った機種にも関わらず、熱かったせいか濡れどころが悪かったのか画面がつかなくなってしまっていた。これでは御堂に連絡をすることができないと、画面だけでなく充電コネクタやスピーカーなどを細かい部分も拭きながら肩を落とす。
このままでは本当に愛想を尽かされてしまうのではないか。
「っ、う……、痛……っ」
そんなことを考えたせいか、突然、ズキ、と全身に走った耐え難い痛みに思わずその場に蹲った。
胃がぐるぐるとして吐き出したいとすら思うのに、痛みがひどくて力が入らず立ち上がることができない。手が震え、冷や汗が吹き出してくる。周りの音に靄がかかって聞こえなってくるのと血の気が引いていく感覚は、まるで水の中にいるような感覚だ。
(お腹痛い、……まずいかも、吐きそう)
せめてトイレまで歩きたい。そう思えば思うほど痛みで力が抜けて蹲ることしかできなかった。
「おい、大丈夫か」
慌てたような声と、駆け寄ってくる足音。聞き慣れない低い声はきっと別の部署の社員だろう。
別の部署の社員がこのフロアにいることが珍しいと思いつつ大丈夫だと言いたかったが、声を絞り出す力も出ず、声にならなかった。
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