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体を起こした三神峯に金剛沢は徐にハンカチを取り出すと、三神峯の額に当てて汗を拭き始めた。力加減が出来ていないせいで少しだけ痛かったが、優しさが込められた痛みだった。
「……落ち着いたか?」
「すみません、ありがとうございます。もう大丈夫です」
「……大丈夫ならいいけどよ。顔色悪いぞ。無理すんな、今日はもう帰った方がいいんじゃないのか?」
「大丈夫です。まだ開発課さんに渡せてない研究があるので、早く仕上げないと」
そう言った三神峯に、金剛沢は気まずそうに頭を掻いて言葉を濁す。悪い、と小さくこぼした。
「あー……研究遅れてんの、お前のせいだとは思ってねえから」
三神峯はそこで初めて金剛沢の顔を見た。切れ長で吊り上がっている目元はたしかに彼に冷たいイメージを持たせてしまうし、はっきりとした物言いは怖いイメージを持たせてしまう。だけど、その言葉はどこか相手を思いやった温かいものだ。金剛沢はため息をつくと言葉を続けた。
「……たしかに研究課からの報告が上がってこないと俺たちも動けねえからつい研究課に催促してしまうけど、その原因が中田にあるってことは分かってる。中田は去年まで開発課にいたからどんな人間かわかるしな。年功序列とはいえ、あいつは主任なんて肩書をもらう器じゃねえよ」
「……」
「実験抱えて、報告書まで抱えて、さらにその責任まで負って。よくやってるよ、お前は。研究なんて遅れたっていい。俺がなんとかする。今日は早く帰れ。何なら俺から上に話しておくぞ」
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