ep.7

11/23

1491人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
「……ありがとう、ございます。でも、大丈夫です。研究自体は楽しいので」  初めて、自分を評価されたような気がした。目頭が熱くなって、それを隠すために絞り出した言葉はあまりにも単純な言葉だった。そうか、と短く返事をすると、金剛沢の手が乱暴に三神峯の頭を撫でる。その表情はどこか複雑そうだ。 「三神峯」 「? 金剛沢さん?」  突然背中に手を回されて、強く抱き寄せられた。彼の服に染みついた煙草の香りが鼻に広がる。金剛沢は何か言いたげに何度か背中に回した手に力を込めたが、ふと鳴り響いた電話の音にその手を離した。 「悪い、会議に呼び出されてんだ。もう行かねえと」  とにかく体大事にしろよ、と言って急ぎ足で談話ルームを出て行った。言われてみれば彼の手にはタブレットや大量の書類が抱えられている。会議に呼び出されていたにもかかわらず、蹲る三神峯を見かけて駆けつけてくれたのだろう。煙草の香りがやけに鼻に残ったが、嫌だとは思わなかった。 (俺も、戻らないと)  ふらつく体に大丈夫だと言い聞かせて三神峯も立ち上がる。転がった紙コップの中にはわずかにコーヒーが余っていたが、飲む気力もなく結局飲み残しの回収ボックスに捨ててしまった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1491人が本棚に入れています
本棚に追加