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企画書を隠し持っていた、なんてことが前にもあったせいで勝手に坪沼か中田のどちらかがずっと持っていたのではないかと思っていたが、坪沼が言うように三神峯が展示会でいなかった日に飯田に資料を渡していたのだろう。それが自分に回ってなかったのだ。
飯田がうっかり忘れていたのか、そこまでは分からないが。
周りの社員は見ているだけで、激昂している坪沼を誰一人止めようとはしなかった。それもそうだ、ここでこれ以上口を出せばそれが誰だろうと火に油を注ぐ行為だと誰もが知っているからだ。坪沼に重ねるように、今度は中田があざ笑うように口を開いた。
「どうすんの? さっき僕がいなければ薬研課は回ってないとか偉そうなこと言ってたくせに」
(……え、それって)
「なんだそれ、お前そんなこと言ってたの?」
中田の言葉にピリ、と坪沼を纏う雰囲気が変わる。
「自分じゃないと薬研課は回らないからみんな仕事を押し付けてくるとか、そんなこと言ってたよなあ?」
三神峯は中田の言動に血の気が引いていく感覚に陥った。
「そんなこと……っ」
――そんなこと言っていない。とにかく自分の把握していた案件はタスクリストにあるのが全てだ。そう言おうと思ったが、最悪だ、早くしろよ、という部内の雰囲気に反論をしてももう誰にも真実を聞き入れてもらえない気がした。
いくら三神峯が研究リーダーを任されているとはいえ、課の中では一番年下でもあるのだ。勤続年数の浅い人間の話など、一番聞き入れてもらえない。
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