ep.7

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「僕ですか? 僕は昨日まで出張で北海道に行ってきたものでね。この前大阪の展示会で薬研課さんにはお世話になったし、今度勉強会を開いてもらうのでご挨拶兼ねてお土産。草加せんべいはお好きですか?」 「は、北海道に行って草加っておかしいだろ。草加せんべいの発祥がどこかも分からないとか?」 「はは、もちろん知っていますよ。別に北海道のお土産とはひと言も言ってませんからね」  皮肉に切り返した御堂の言葉に一瞬、中田は言葉を失う。チッ、と小さく舌打ちをすると御堂のネクタイを掴んだ。掴んだ拍子にネクタイを留めていたピンが音を立てて床に転がる。 「喧嘩売ってんのか? 偉そうにしてるけど、たかが主任ごときで調子に乗るなよ」 「生憎ですがこれは非売品なので中田主任にはお買い上げいただけないですねえ」 「お前……!」  御堂の挑発にネクタイを強く引っ張った中田だったが、御堂は表情を消すと中田の耳元で言葉を続けた。 「……役職が付くような器じゃないって金剛沢が言ってたけど本当だな。部下をいじめて何が楽しい? お前、自分で自分の評価落としてるの分かってる? それとも、お前よりも三神峯さんが優秀だから自分のポストが取られないか必死?」  御堂のその言葉は中田にしか聞こえていないだろう。現に中田の一番近くにいる坪沼も何を言っているのかわからないようで怪訝な表情を浮かべている。苦虫を食い潰したような表情を浮かべた中田に、ようやくそれまで黙っていた坪沼が御堂と中田の間に割って入った。
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