ep.7

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「おい、御堂、調子に乗るなよ。俺たちが営業部に口を出せないのと同じように、お前がうちの課に口出す権利はないだろ」 「そりゃ、課の方針には、ね。でも僕も曲がりなりにも部下を持つ立場ですから。主任として思ったことを言ってるだけですよ。部下一人の体調管理もできない上司って、上司である必要ありますか?」 「御堂! いい加減に!」 「あれ、御堂くんじゃないか!」  坪沼の怒号に静まり返ったオフィスに響いたのは、薬事研究課の部長――大野田の嬉しそうな声だった。大野田の声に慌てて手を離した中田を気にすることなく、ネクタイピンを拾いながら御堂は笑顔を浮かべる。 「大野田部長、ご無沙汰しております。先日の展示会ではありがとうございました」 「いやいや、三神峯くん、優秀だっただろう。若いし、彼にとっても勉強になると思ってね」 「三神峯さんにはとても助けてもらいましたよ。僕の部下にも色々教えていただいて今後の勉強になりました。これ、お礼が遅くなりましたが昨日まで北海道に行ってきたもので。バターサンド、よかったら召し上がってください」  御堂が持っていた紙袋を手渡すと大野田は歓喜の声を溢し、バターサンド好きなんだよ、と続けた。よく知ってるねえ、御堂くんには適わないよ、とどんどん上機嫌になっていく大野田と御堂は楽しそうに談笑している。 「……では、僕はこれで。お忙しいのにお邪魔してすみませんでした」 「わざわざごめんね、御堂くん」 「……!」  ――大丈夫だよ、景。  御堂がオフィスを出ていく瞬間、彼はこっそりそう言った気がした。三神峯にしかわからないように優しく緩められた目元に、ねじ切れそうだった胃痛も和らぐ気がした。
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