ep.7

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 颯爽とオフィスを後にした御堂に、大野田は御堂くんは若いのによく出来た子だと言いながら上機嫌で席に戻っていく。坪沼と中田はまだ三神峯に何か言いたげだったが、上司がいる手前それ以上何も言わずにその場を離れた。  結局この案件は一人でやれ、ということなのだろう。散らばった企画書を拾い上げ、自分の席に戻った。 (……俺は、リーダーを降りた方がいいのかな)  御堂のように人を動かす力があるわけでもなく、上司とうまく立ち回ることができるような力があるわけでもない。三神峯がリーダーに抜擢されたのは中田が言っていたとおり、たまたま10年間滞っていた研究を成功させて新薬開発に貢献したのと、その過程で得た研究が世界的に医薬品開発の新しい鍵となり、それが評価されたからだ。  研究課の中で自分を慕い頼ってくれる社員がいないわけではないが、社員の仕事量を優先するあまり、リーダーとしての責務を果たせているかは別の話である。 (いや、俺も和樹みたいに仕事を振れるようにならないと)  とにかく今はこの案件を捌くことが最優先だ。三神峯は企画書にマーカーを引くと、案件を分散させるべく課内の社員に頼むことにした。 「まったく、これ、三神峯が残してた仕事じゃないか」 「すみません、お力を借りたくて」 「まあ、お前の仕事量じゃこんなこと一つや二つあってもおかしくないよな。任せてよ」 「三神峯さん、私にも任せてください」  同情なのか御堂が仲裁したおかげか、意外にも他の社員がすんなりと受け入れてくれたことが救いだった。むしろ積極的に申し出てくれて、早くこうして頼めばよかったとも思った。中田は面白くなさそうな目で見てきたが、これを一人で抱えて期日に間に合わなければ、また開発課に迷惑をかけてしまう。案件がひと段落すれば中田に何かを言われるだろうと思ったが、三神峯は極力知らないふりをした。 ≪三神峯さん、すみません。企画書、僕がずっと持っていました。他の書類に紛れてすっかり忘れてしまってました。主任の剣幕に負けて言い出せなくて……≫  席に戻ると飯田からはそんなチャットが入っていたが、返すことはしなかった。
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