騎士学校の落ちこぼれは悪魔と契約する

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 僕は、サムが一命を取り留め、大事に至らなかったことに安心した。しかし、ノワールへの憎しみの念に駆られた僕は、どうにかして、ノワールに一矢報いようと考えていた。怪我をして訓練を出来ないので、今は、宮殿の図書館で魔導書などあやしげな本を読み漁る日々だ。魔法も独学ながら少し使えるようになっていた。そんな中、僕は、ある書物と出会う。「魔法の剣士」という本だ。魔法剣と呼ばれる、剣と魔法を組み合わせた高度な戦闘術を使いこなし、敵を圧倒する剣士の戦いが描かれていた。半分、物語で、半分、武術指南書のようなこの本から、魔法の戦闘での使用に対する未知の可能性を感じた。なぜ、ただの戦闘魔法ではなく、魔法剣かというと本格的な魔導書の魔法は難解なので、できる気がせず、その魔法剣の本を試したら、基本は実現できたからである。しかし、初歩の基本だけではまだ強さが足りない、ノワールは倒せないと思ったので、僕も魔女がたくさんいるというサティの教会の地下に足を運ぶことにした。  サティの教会は、祭日に来るくらいなら、何の変哲もない教会だ。しかし、その地下室では黒いローブを纏った怪しげな人影がどこからともなく出入りしているという。シエラはノワールのあまりの凶悪さに、僕が魔法剣を学ぼうとする意思を汲んでくれた。シエラの言葉を思い出す。 「地下室の入り口は、教会奥の本棚を右にずらしたら出てくるよ」 ーーあった……誰もいない教会の埃を被った書架を右にずらすと、暗い地下への階段が現れた。 「でも、気をつけて。地下室には悪魔がいるって噂もあるから……」 そんなことを言ったシエラは心配で仕方ないようだったが、僕は復讐のために力を求めていたので、そんなことで足がすくむことはなかった。血の気に溢れていたのである。  陰りのある地下室には数人の魔術師と思しき人物が書物を読んでいた。 「お初ですかな?」 髭を蓄えた、怪しげな雰囲気の男性に声をかけられた。 「あっ、あの、すみません!勝手に来てしまったみたいで」 「お名前を聞く前に、こちらから名乗りましょう。私はファウスト。ここで魔法を教えているものです。皆からは、ファウスト博士と呼ばれています」 怪しい男だが、丁寧で親切な対応だったので、僕は少し安心した。 「あの。魔法を教えて欲しいのですが。どうしても力が必要なんです」 「あなた、急いでらっしゃる?あなたからは焦りを感じますね。いきなり、魔法の力を欲しがるような何か事情があるのではないのですか?」 図星だ。ここまで見抜かれてしまうとは、嘘は通用しないだろうと思った僕は 「復讐のためです。どうしても力が必要なんです!今すぐにでも!」 ファウスト博士は少し考え込み 「なるほど。そんなに早く力が欲しいなら、魔法に頼りたくなる気持ちもわからなくはない。魔法とは不可能を可能にする存在であるがゆえに、時に欲望を叶える。が、しかし、それは時として使うものにまで破滅を齎す。それでも、なお、力を欲しますか?」 僕の答えは決まっていた。 「はい」 「なら、あれを試してみよう」 ファウスト博士はよく分からない魔法円を描いて、何やらつぶやいた。すると、影から赤い衣を纏った角のある異形の人型の悪魔が現れた。 「お呼びですか?ご主人」 「メフィスト。この子に力を貸してやってくれないか?」 「ククク……ファウスト博士は自分の魂だけでなく、若い子供の魂まで売るつもりか」 「まだ、私の魂も売るとは決まってないし、使役しているのはこちらのほうだぞ!メフィストフェレス!」 「失礼しました。これも契約のうち、力を貸しましょう」 そうメフィストと呼ばれた悪魔が言うと、何もない虚空から契約書を取り出した。 「ここにサインを。少年」 「そういえば君の名前を聞いてなかったな。ロイというのか」 僕がサインをしている間もファウスト博士とメフィストは、やかましく会話している。僕は、ノワールへの復讐心に囚われるあまり考えず衝動的にサインをしてしまった。 「契約成立ですな。ロイ様」 「はい。でも、契約するとどうなるんですか?」 ファウスト博士とメフィストは呆れたような顔をしたが、ファウスト博士が答えた。 「メフィストは人間に魔法を教えるのが好きな悪魔だから、強大な魔力を持った人間が適応できるか試すというのが契約内容ですよ。私はもっと深い契約を交わしているが、それは置いておいて」 「それなら、ファウスト博士はさらに危険なのではないでしょうか?」 「かもしれんな。しかし、悪魔のことをもっと知りたくてな」 「変わってますね」 「お互いに変わってると思いますぞ。ロイ様もファウスト博士も」 僕は、契約をした瞬間、深遠なる真理を追求し叡智にたどり着いたような、そんな魔法の理を理解したような感覚に陥った。しかし、その時、冷静に冷めた。悪魔と契約しなくても、魔法は使えるし、魔法剣も使えたのではないかということに。 「僕は、もしかして悪魔と契約しなくても魔法で強くなれたのでは……?」 メフィストは笑い出した。 「やっと気づきましたか。あなたに貸し出していた、図書館の魔導書に、この教会の地下に来てしまうような暗示の魔法をかけさせてもらっていたのですよ。しかしながら、ターゲットはあなただけではありません。魔法の本に興味を持ち読み漁っている人ならみんな、この教会の地下の情報を耳にし、少なからずやってくるのです。こうして魔術師の溜まり場ができるのですよ。しかし、こんなに簡単に契約してくれるとは思いませんでした。ありがとうございます」 僕は急に怖くなってしまった。しかし、それと同時に今の状態なら復讐に臨めると実感した。
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