私が死ぬまで待っていて

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 地元で人気を誇る制服を少しだけ自慢気に着こなすのは、入学したての一年生だ。  数日前に入学式を済ませたばかりの千里(せんり)も、スカートを風に揺らしながら通い慣れてきた通学路を颯爽と歩いていた。 「おはようございます」  いつも出会う散歩中の老夫婦に挨拶し、駆け抜けてくる小学生を上手に避ける。そうすれば、スーツに身を包んだ青年といつものようにすれ違う。  日焼けした肌に、大きな身体は逞しく行き交う度に千里は密かに胸を高鳴らせていた。 「格好良いと思うのとはまた違う。こう、胸の奥が痛くなるような……」  名も知らぬ青年に感じる不思議な感情に、千里は首を傾げつつ今日も精悍な横顔を堪能する。 「危ない、千里!」  クラクションが響いた瞬間、ガードレールを越えて車が千里の方に突っ込んでくる。  本来なら、千里は車に轢かれているはずだった。しかし、間一髪で青年が体を引っ張ってくれたため、新品の綺麗な制服に泥がついただけで済むという奇跡が起こった。 「わ、わたし……」  恐怖で声が上手く出せない千里を落ち着かせるように、優しく背中が叩かれる。 「今度は先に死にそうになるなんて。千里、お前は本当にひどい奴だ」 「えっと、あの?」  千里は初対面と思われる青年が、なぜ親しげに自分の名を呼ぶのかわからず戸惑う。 「約束、忘れたとは言わせない」  力強い輝きを放つ青年の瞳に捕らわれた千里はクラクラとする頭を押さえる。 「あれ? 頭を打ったかも……」  千里は激しい痛みに耐えきれず目を閉じた。
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