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食事をしながら会話が弾んだ。
「ところでお母さんが花嫁になりたいのはわかった。でもなんでうちのオヤジを選んだの?」
「だって、優しいんだもん」
「それ普通じゃん。優しい男なんていっぱいいるじゃないか、オヤジのどこがいいんだ?」
「龍之介さんの芸術に対する姿勢かな」
「どういうこと?」
「うーん、直也。芸術ってなんのためにあると思う?」
「ええ?そ、それは・・・」(おっと、お母さん、いきなりハードルを上げてきた!)
「人の心を豊かにするためかな?」
「はああ、芸術家の息子がそんな答えしか言えないなんてお母さん悲しい」
「じゃあ、お母さんはどう思っているんだい?」
「芸術はね、実存を100と基準にすると、その実存を200にも300にもして私達の心を揺さぶるものなの。ミロのヴィーナスも、ミケランジェロのダヴィデ像もただの裸の像じゃないの。科学者は言うわ。実際の人間の骨格や肉付けではありえない寸法だそうだわ。でもそれは実存の人間より数倍も美しく見えるじゃない?まさしく芸術の為せる技だと思うの。これって素敵なことじゃない?」
「ピカソの絵も?」
「そうよ、キュビズム。実際に横顔に目が2つなんてあり得ない。でもそれを見えてしまうように表現したところが素晴らしいと思うわ、龍之介さんは、なんでもない人物や風景を何倍にして表現するためにいつも全身全霊で自分を磨いているの。あたし、小さいときから龍之介さんの話を聞いてこんな人に愛されたいなあって思ったの。今では龍之介さんはこの私も芸術作品だと言ってくれるから・・・」
「ゴホン! 父さんはな、美由の人生を200にも300にも美しく表現していきたいんだ」
「なんだよ、結局、おノロケかい!」僕は笑った。
美由の考えに僕も興味が湧いてきた。日頃描くデッサンも友人を描いたイラストももしかしたら、実物以上に何かを表現させているのかもしれない。そんなことを仕事にしている父さんはなんだか立派に感じた。
「さ、そろそろ、美由、お風呂が沸いている。疲れただろ。先に入っちゃいなさい」父さんは言った。
「じゃあ、俺は洗い物担当で」
「え、直也も優しいね」
「優しい俺は好き?」
「息子だもん。大好きよ」
僕は今までにない心臓が高鳴るような引力に惹かれていっている気がした。
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