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今となっては思い出したくないが僕が帰宅部になったのは理由がある。
幼稚園時代から始めたサッカーは、僕にとって最高に楽しい時間だった。
恵まれた体格と足が速いということもあって、小学生の時にはユースのクラブに入っていた。
メキメキ上達していった僕は中学の時に、全国大会予選に出られるチャンスを掴んだのだ。
しかし運命の日がやってきた。
準々決勝の試合、相手チームと2対2の接戦の中で後半のアディショナルタイムでのことだった。
なんとかあと3分、守りきれるか、というとき。
スルッと相手チームに渡ったボールは、ボランチからフォワードの選手に渡り、みるみるうちにピンチになった。
僕は全速力で駆け寄って、喰らいついた。
このままではシュートを決められてしまう。
あっと言う間にボールはペナルティエリア内。僕がいるのでオフサイドではない。
僕が仕掛けたのは懸命なスライディングだった。
僕の脚は相手の足に絡まって倒れた。
「ピピー!」という笛で、僕にレッドカードが出た。
相手は懸命にグラウンドで痛みにうめき声を上げていた。
僕の失敗だ。過失だ。故意に相手の脚を傷つけてしまったのだ。
その後のペナルティキックで相手のシュートは決まり3対2で敗退。
なによりも相手の怪我が尋常ではなかった。アキレス腱断絶というものだった。
後悔と謝罪の日々・・・。
それ以来、僕にはサッカーを続ける勇気がなくなった。
僕には、スポーツは向いてはいない、そう言い聞かせてきた。
しかし、今、今井純也の爽やかな笑顔を見るとたまらなく羨ましく見えるのだ。
「俺、部活なんてやっている暇はねーし」純也にはそう強がってみせた。純也は僕が父子家庭であることを知っている。
「だよな、直也は絵の才能もあるしモテモテだし、羨ましいよ」そう言って純也は教室を後にした。
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