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池上紗季が依頼してきた友人の似顔絵を書いて、僕は学校を出た。
校庭ではサッカーや野球部、テニス部などが、声を掛け合って練習している。
そんなグラウンドを横目で見ながら、僕は通学路の坂を上がっていく。
(俺には青春なんてないのかな?)そんな気持ちになるこの時間は嫌いだ。
スーパーに寄って、長ネギと醤油を買って家路につく。
友人を家に招待したときには「すごい豪邸だね」なんて言われたりもする。お隣の瀟洒なお屋敷には敵わないと思うが、僕の家は母屋とアトリエに分かれているので、敷地だけは大きい。
「ただいまー」誰からの返事もない。父はアトリエにこもって絵を描いているのだろうか。それかもしくは、制作に煮詰まって、馴染みの駅前の喫茶店に行ってマスターのところで油を売っているのだろうか。別に返事なんて期待しない。
帰ってまずは掃除だ。キッチンからリビング、寝室まで掃除機をかける。髪の毛が絡まない最新式の掃除機。でも音がうるさい。
掃除機のスイッチをONにして今日の家事が始まる。
玄関、廊下と掃除機をかけていると、
「●☓▲¥&◎■!」と声がした。
振り向くと父さんだった。
「おかえり、直也。ご苦労さん」と父の二階堂龍之介が立っていた。
「びっくりした!」
「洗濯物は父さんが取り込んだ。・・・で・・・その・・・直也、話があるんだ」
「話? 何だよ」
「その・・なんだ・・・掃除機の後でいいから」
「気になるじゃん。早く言ってよ」
「そうか、じゃ、リビングで」
僕は鈍感じゃない。すぐにピンときた。
「父さん、もしかしていい人出来た?」僕は訊いてみた。
「直也、お前はなんというか、勘がいいというか・・・まあ、あっちへ行こう」
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