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リビングのソファーに腰を掛けると父さんは徐に口を開いた。
「直也は、お母さんは欲しいか?」
「ああ、やっぱり。父さん、再婚の話じゃん」僕は笑った。
「笑うとこじゃない。お母さんは欲しいか?」
「うーん、父さんの選んだ人なら僕は信じるよ、欲しいかな」
「本当か?」
「だって、家族が増えるっていいことだし、父さんもいつまでも寂しいのは可哀想だし」
「うまくやっていけると思うか?」
「そりゃわかんないよ、で、相手はどんな人? マダムな美魔女さんタイプ? しっとり和風美人?」
「それは・・・その・・・会ってみてくれればわかると思う」
「案外、ぽっちゃりさんな料理上手な人だったりして」
「いやその・・・直也、明日、会って欲しい人がいる。放課後、暇か?」
「おお! 急だね! 父さんのためなら学校終わって速攻駆けつけるよ」
「じゃ、明日、いつもの喫茶店『クレメンタイン』で待ってるから」
クレメンタインは父さん行きつけの駅前の喫茶店で、マスターの秋山章太郎さんは父の高校時代の同級生。いわば幼馴染だ。父さんは創作に煮詰まると章太郎さんに会いに行く、というわけだ。
僕はクレメンタインには小学生の時に連れて行ってもらったが、それっきりだった。
「OK、制服でいいの?」
「ああ」
「任せてよ、父さんのメンツ、潰さないように好青年を演じて見せるから」
「その・・・なんだ・・・父さんのこと嫌いにならないか?」父は言った。
「何言ってるんだよ、いままで父さんにはいっぱい世話になったからこれからは父さんにも幸せになってほしいよ」
「そ、そうか」
「そうだよ」
僕は胸が弾んでいた。
男所帯に女性がやってくる。
初めて『お母さん』と呼べる人が来る。僕の想像が頭の中を駆け巡る。
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