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呪縛
俺たちが辿り着いたのは海だった──
子どもの頃からこの海岸にはよく遊びにきていた。シーズンではないし、日も暮れているから人はほとんどいない。ほとんど、というか、ざっと見渡しても俺たちしかいなかった。
「結構寒いね」
「海風がな……」
何となしに二人で浜辺を歩く。風の音と波の音……それしかない暗闇に、この世にたった二人だけのようだと錯覚し、俺は心が満たされていく。これだけのことなのに、彼といられることが本当に嬉しい。
「俺がこのまま海に入ったらさ……ついて来てくれる?」
「バカなこと言ってんな」
本気か嘘か「一緒に死んでよ」と海に向かって走っていく後ろ姿がとても綺麗で思わず見惚れた。すぐに冗談だと言って振り返った彼は、今にも泣きそうな顔をして微笑むから俺は笑って海に向かう。
呪縛から逃れられない──
でも、それでもいいと俺は後を追って海に入った。
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