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狡い男の本心は……
不思議と昔から君にだけは安心してなんでも話せた。
俺の大切な幼馴染の君。
初めて好きな人ができた時も、初めて彼女とキスをした時も、初めて失恋した時も、何でもかんでも相談していた。
笑っていつも褒めてくれる。良かったな……と喜んでくれる。どんな俺でも慰め肯定してくれる。絶対俺のことを否定しない。
俺のことを認めてくれる安心感に甘えていた。どこからくるのかわからない「裏切られることはない」という絶対の自信。そしてその都度、確認したくて試すようなことをしてしまう。
そう、これは俺が「安心」するための儀式みたいなものだ──
「俺がこのまま海に入ったらさ……ついて来てくれる?]
「バカなこと言ってんな」
この先どんなことがあってもきっと君は後ろをついて来てくれると俺は知っている。物心ついた時から、俺を見つめる瞳の本当の意味を、俺はちゃんと理解していた。
あの時、俺のために苦手な勉強を頑張り、高校までついて来てくれた君に少しだけ沸いた恐怖。居心地の良さを求め君の愛を利用していたくせに、道を違ってしまいそうだと怖くなり俺は逃げた。それでも君の元から逃げた俺に、未だ変わらず優しい手を差し伸べてくれる。そしてまた俺はその手に縋り甘えるために帰省する。
これは何度も繰り返される茶番だ。
俺の恋愛が続かないその理由は、自分がよくわかっていた──
引き攣った顔で俺に続き海に入って来る君を見て、俺は笑顔で名前を呼ぶ。
「こんなにびしょ濡れで帰りどうするんだよ」
「ふふ、風邪ひきそうだな」
「笑い事じゃない…… でももう大丈夫か?」
少し怒りながらもやっぱり俺の心配をしてくれる彼が優しい。
「うん、もう大丈夫。いつもありがと。俺も大好きだよ」
初めて「大好き」と口にした。きょとんとした彼の顔が少しだけ歪むのがわかった。
俺からの「大好き」の意味が正しく伝わってなくてもいい。遅くなってしまったけど、これからゆっくり君が俺にしてくれてきたことを俺も返していこうと思う。
end
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