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「書きづらい……」なんてぼやきながら何かを書いた彼は、ペンの先をカチっとしまうと「ん」ともなかを再度あたしに向けた。
そこでついに判明する。彼が高級もなかに何を書いたのか。
「それ俺の番号だから」
つい先日も聞いた文言。彼は同じことを2度やってみせたのだ。
見覚えのある11桁の番号が、もなかの品名の上に堂々と書かれている。信じ難い光景に絶句する他ない。
「捨てないで」
予測不可能の行動。口数が少ない分、彼が何をするのか分からない。
会社の前で待っていたり、家に泊まったり、同じベッドに入ってきたり、
────毎日友達と顔を合わせる学校が数年後には廃校になるかもしれないという風の噂を耳にすると、あたしを連れて第1理科実験室に行き、“思い出”を刻んだり。
黒瀬克はあたしが着ているパーカーのフードの中にもなかを入れた。あたしは今まさにゴミ袋を持っているから、すぐに捨てるとでも思ったのか。
フードにもなかが入った分の重さを感じるのに、身体が硬いあたしは、腕を背中側に回しても掴めやしない。
あがいても、拒絶しても、簡単に迫る彼のせいで全部あっという間に無駄になって、泣きそうになる。
「相沢君」
「えっ、あ、僕の名前知って、」
「このこと内緒にしてね」
「へっ……」
「内緒」
「……は、はい。了解しました」
相沢君もあたしと一緒に抗ってくれよ。
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