ツー・ショット

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自分でもどんな顔になっているか分からない。 こっちを見た黒瀬克は、無表情で一度の転瞬をすると「連絡待ってる」そう言ってあたしに背を向けて歩き出す。 彼が心の中で何を思っているのか分からない。 「……相沢君」 徐々に遠ざかる黒瀬克をぼんやりと見つめたまま相沢君を呼ぶ。「はいっ」としっかりとした声を出す彼に「もなか取って」と言えば「へ?」と目を丸くする。 「だから!もなか!取って!」 「っな、なんで怒るんですかあ……」 「怒ってない!フードの中にあるから取って!」 「こ、怖いですぅ」 黒瀬克を前にしたときよりもビクビクしている相沢君は、あたしの後ろに回り込んでフードの中からもなかを救出した。「ど、どうぞ」と差し出されたそれを受け取る間も、相沢君は肩を強張らせている。 「……す、すみません。本郷さん」 「……なんで相沢君が謝るの」 「ぼ、僕、本郷さんがもなか食べてないこと知らずに、最後の1個を黒瀬さんに渡してしまったので……」 「……いや、まあ別に黒瀬さんにあげること自体は問題じゃないけど、」 「ほっ、ホントのホントに誰にも言いません。神に誓いますっ」 相沢君は黒瀬克に貸していたボールペンをギュっと握っていた。その手が小刻みに震えている上に、パチパチパチと何度も瞬きをしているから、相沢君は嘘をついているのではないかと疑ってしまう。 黒瀬克が自分の仕事の先輩に迫っている場面を見てしまったのだ。完全に美味しいネタじゃないか。実はあたしへのストレスを募らせている相沢君が、そのネタを上司に流して、あたしを貶める可能性だってあるわけだ。 日頃、ビクビクしている登場人物が、いざという時に周りがびっくりする行動を起こすドラマがあるが、相沢君はまさしくそのタイプ……。
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