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町は、赤や緑の装飾に包まれ、鈴の音が心地よく、人々をわくわくさせる雰囲気を作り続けていた。
「全く、やかましくて敵わんな」
クリスマスの装飾を買いに出かけた笹野 悟が、扉を開けて開口一番にぼやいた。
「笹野さん! 僕がツリーの一番上に星を付けるんだからね! 約束だからね!」
旭川 裕貴は、部屋に飛び込むなり、買ってきた装飾を引っ張り出している。笹野は全く興味がないのか、「好きにしろ」と呟いて、ソファに深々と腰掛けた。
部屋が殺風景だと言って、クリスマスの装飾を買いに行こうと言い出したのは、まだ10歳にも満たない少年の裕貴だ。裕貴は、彼の助手を勝手に名乗って此処へ来るようになったが、お陰でこの事務所はますます、町の人にとって親しみやすいものになったと思う。
このアパートの大家である笹野も、此処を事務所にするといった時は迷惑そうにしていたものの、アパートに沢山人が来るようになって、彼が慕われているという事に気付くと、図々しくもこの事務所に居座る事が多くなった。笹野は頑固で融通が利かず、特に金銭への執着が凄まじくて、今だって札束を数えるくせを辞めないが、それでも彼は笹野の事を勝手に助手にして、都合よく扱っていたりもした。裕貴と一緒に買い物へ行かせたのも、そういう事である。
彼は、不定期に訪れるクライアントを迎え入れる必要があるから、どうしても事務所を離れる訳にはいかないのだ。
からん、と玄関のベルが鳴って、彼は顔を上げた。
玄関の向こうから、そっと顔を覗かせた青年に、彼はにこりと微笑んで言った。
「ようこそ、銀探偵事務所へ! ご依頼は何なりと!」
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