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 ソファに座ってテレビを見ていたが、ママが電話でおしゃべりしている声がうるさくてテレビの音がよく聞こえない。  これからいいところなのに、どうして女性というのはこうもおしゃべりがすきなのだろうかと思った。  どんな楽しい話をしているのかと思って聞き耳を立てていると、どうやら誰かが結婚するらしい。ママのお友達だろうか。  それにしてもうるさい。いい年してキャッキャ、キャッキャ興奮して、これじゃまるでぼくと同じ小学四年生じゃないか。  ぼくが密かに好意をよせている、駅前のケーキ屋のお姉さんを少しは見習って欲しい。お姉さんはしずかで、やさしくて、かわいいのに。  ママとお出かけして帰りにケーキ屋さんによると、にっこりしてぼくにケーキの入った袋を手渡ししてくれる。あの大きな目がかわいいのだ。  お姉さんの事を思い出すと、余計にママがうるさすぎるので、いいかげんに止まれ、と思ってママの方にテレビのリモコンを向けて停止ボタンを押した。 「駅前のケーキ屋さんの娘さんが!? それにいまどき契約結婚って、ホントなの!? 」  急に胸がドキッとしてママの方へリモコンを向けたままぼくの体は硬直し、耳で聞く以外の機能を失った。 「恋愛話のもつれ!? ヤダ、おとなしそうな顔して、そんなこと、うんうん、えーっ!?」  ママは電話を耳に当てたまま仰け反るように驚いた。ケーキ屋のお姉さんが結婚?   ぼくも小学四年生ながらに結婚の意味くらいはしっている。パパとママの様になる事だ。いまのところ、ぼくはケーキ屋のお姉さんと結婚する予定は無い。  ケーキ屋のお姉さんが結婚してしまうと、将来ぼくはケーキ屋のお姉さんとパパとママの様になれなくなってしまうという事だ。  急におしっこに行きたくなる時のような気分になって、さっき夕ご飯を食べたおなかがグゥーッとすこし引っ込んだ気がした。  ケーキ屋のお姉さんの事をママから聞きたくていてもたってもいられなくなり、ママに向けたリモコンの停止ボタンを何度も押した。  はやく。はやく。何度も、何度もボタンを押した末、やっとママが耳から電話を離した。  ママは先ほどの興奮した状態からはうって変わって、すました顔で電話の画面を押してテーブルの上に置いた。    ぼくは女の人の裏と表を見た気がした。そして、ママはぼくにリモコンを向けられていることに気づき怪訝な視線をぼくに向けた。
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