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16
「おっ、マサコじゃないかっ、久しぶりっ」
おばあちゃんはベッドの上で上半身を起こしていた。
「ちょっと、心配させないでよー」
ママはまた足をコツコツさせながらおばあちゃんの元へ向かいながら言った。
「心配してくれたんか? いつもはほったらかしの癖にぃー」
「何言ってるのよ、おばあちゃんがひとりがいいって言ったんでしょ」
「まぁの、若い男女の生活を覗き見するのも気が引けてのぉ、ふひっ、ふひっ」
どうやらおばあちゃんは一命を取りとめたらしい。
もしおばあちゃんが死んでしまったら、ぼくがケーヤク結婚について調査している事がママに知られてしまう。ぼくはいろいろと安心してホッと一息ついた。
「で、カラダは大丈夫なの?」
「ああ、もう全然大丈夫やでぇ……ふひっ! ケッ、ケン坊がっ、ふひっ、ふひっ、契約結婚を破棄させてっ、ふひっ、ふひっ、小四なのに略奪愛をするなんて言うからっ、つ、つい興奮してしまってぇっ! ふひっ! ふひっ! ふひーっ!」
おばあちゃんはベッドの上で高笑いした。
「契約結婚を破棄して略奪ぅ?」
ぼくは透明人間に胸をグーで殴られた。
顔を上げるとママが目を丸くしてぼくの方を見おろしている。
おばあちゃんに裏切られた。ふたりだけの秘密だって言ったのに。まだ二時間しか経ってないのに。
急におしっこがしたくなり、両手がふるふると震えた。
「ちょっと、あんた、ママの電話聞いてそんな事考えてたの?」
「そっ、それわ……」
切り抜けなければならない、ここはどうにか切り抜けなければならない。でないと真面目なぼくのイメージが……。
「マサコォ、ケン坊のヤツ、駅前のケーキ屋の姉ちゃんに恋しとるでぇっ!」
ぼくは飛び上がりそうになった。
「ああ~、やっぱりぃ~、ケーキが食べたいとか言って、ほんとはお姉さん目当てだったんだぁ」
ママがニヤニヤしてぼくを見た。ぼくは顔がすごくあつくなってあたまの中身が外に押し出されそうになった。
「ケ、ケン坊っ、お前、そんなこと言っとん? かっこつけてそんな事言っとん?」
おばあちゃんはぼくがからかわれてすごくうれしそうだ。目にはちょっと涙が出ている。鼻がわさびを食べた時のようにつんとして、ぼくの目もいまにも涙が出そうである。
「もう、かっこつけちゃってぇ、好きなら好きっていえばいいのにぃ、アハハハハハァ」
ママもとてもうれしそうだ。なにがうれしいのかはわからないが、ぼくはとても恥ずかしい気がしてきて限界を突破した。
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