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 急にこんな事を言い出すなんて、せめてもの罪滅ぼしのつもりだろうか。  確かに、ここ一ヶ月ちょっとお姉さんのケーキを食べていない。思い出すと口の中によだれが溜まってきた。  しかし、罠かもしれないとパパ譲りの直感が働いた。ぼくはゆっくりと振り返っておばあちゃんの方を向くと、やっぱりニヤニヤしていた。 「どうしたんだい? ケン坊、ふひっ! ふひっ!」  やっぱり罠だ。ママはおばあちゃんにお姉さんを紹介する気だ。ぼくが好意を寄せているお姉さんがどんな人か見せて、あとでたのしむつもりなんだ。  だまされるものか。  でも笑顔でケーキの袋を渡してくれるお姉さんを思い浮かべたら、ケーキ屋さんに行きたくてしかたなくなった。  それにお姉さんに会えば、もしかしたら先ほどの失態の傷もいえるかもしれない。行きたい、でも罠かもしれない。食べたい、でも罠かもしれない。 「どうしたケン坊、行くのかい? 行かないのかぁい? ふひっ! ふひっ!」  やっぱり罠だ。でも、ぼくはお姉さんに会いたい。今もおねえさんがケーヤク結婚で苦しんでいるかもしれないんだ。  おとこは苦難が待ち受けているのがわかっていても、行かねばならないときがあるのだ。ママが見ていたテレビで見た。そう思い、ぼくは決意を固めた。 「うん、行く」 「よし来た」 「ふひっ! ふひっ! ふひっ!」  車に乗って少しすると駅前に着いた。ママがコインパーキングに車を入れて、ぼくたちはお姉さんのケーキ屋さんへ向かった。  一月以上もお姉さんに会っていなかったので、なんだか緊張してきた。緊張しながらちょっと歩いている間にお姉さんのケーキ屋さんについた。  ラ・ルシエル。ぼくはお店の上の看板を見上げた。  たぶん英語というものだと思うがぼくにはどんな意味かわからない。ママが自動ドアの前に立つとブィーンと鳴ってドアが左右に開いた。
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