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19
「いらっしゃいませ」
ぼくはお姉さんの声がした方に顔を上げた。カウンターの奥に白いお姫様のような帽子をかぶったお姉さんが立っていた。
制服もいつものようにチョコレート色とミントグリーンのやつだ。ぼくたちはお姉さんが立っているカウンターのショーケースの方へ向かった。
「どれにしよっかなー」
ママはそう言ってショーケースの前で腰をかがめてケーキを選び始めた。
ぼくは心配になって左にいたおばあちゃんを確認した。案の定ニヤニヤしながらおねえさんの顔をジ~ッと見ていた。
きっとあとでママとあーだこーだ言うために目に焼き付けているのだろう。
「どれにする?」
おばあちゃんに視線を奪われているぼくにママが話し掛けてきてはっとなった。
ぼくはいつもので決っているのだ。おせんべい・カステラスペシャルのような、ケーキのスポンジの間にクッキーが挟まっている英語のやつだ。
このケーキ屋さんみたいなお家の形をしているA&Zというケーキ。
ママに聞いて、これがア・ランド・ズィーと読むのは知っている。
ギザギザの方をゼットといわずズィーというほうがお洒落で、三角形のほうはエーじゃなくて特別、アと読むらしい。
そっちの方がかっこいいからだそうだ。ぼくはショーケースの中を探したがア・ランド・ズィーが見当たらない。
このお店の一番人気で、いっつもたくさんショーケースの中に入っていたのに今日はひとつも無い。
「決まった? ママはいつものお気に入りのにするんだぁ」
ママがショーケースに張り付いているぼくに言った。
「英語のヤツがない」
ママがまた屈んでショーケースの中を覗き込んだ。
「あらほんとねぇ。すいません、いつもあった英語のやつ今日は売り切れですかぁ?」
ママが顔を上げてお姉さんに聞いた。
「すいません、あれはもう作らない事になりまして……」
「えー? いちばん売れ筋だったのに、どうしてぇ?」
「すいません……」
お姉さんはすこし顔をうつむけて申し訳なさそうに答えた。
「ないんだって。どうする?」
「ママと同じのでいい」
「おばあちゃんは?」
おばあちゃんの方を見ると、まだお姉さんのことをじ~っと見ていた。ぼくは嫌な予感がした。
まさかお姉さんにケーヤク結婚の事を聞くつもりじゃ。いや、おばあちゃんのことだからありえる、ぼくとママとおばあちゃんで同じケーキ三つでとお姉さんに伝えてココから出なければ。
「ふひっ、ふひっ、お姉さん……どこかで会ったことないかえ?」
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