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「いただきまーす」  ママがフォークで薄茶色の栗が乗ったケーキを削って口へ運んだ。 「う~ん、おいし~」  ママはニコニコして言った。 「いただきますぅ」  おばあちゃんもケーキを口に運んだ。ぼくもいただきますをして、ケーキをひとくち口に運んだ。冷たく甘い栗の味が口の中に広がる。  おいしい。でもぼくはあのやわらかいのとサクサクした感触の方がよかった。  おねえさんはどうしてあのケーキを作るのをやめてしまったのだろうか。ぼくは考え事をしながら黙ってケーキを食べた。  おしゃべりな女の人たちも美味しいものを食べる時は静かになるらしい。ちょっとしてみんな食べ終わった。 「あー、おいしかった! ごちそうさまー! ところで今日はがんばったわぇ、救急車呼べるなんてすごいじゃない」  ママがぼくの方を向いて言った。 「救急車呼んだのはぼくじゃないよ、そとでぶつかったカッコイイお兄さんが呼んでくれたんだ」 「カッコイイお兄さん? ケン坊が呼んでくれたんじゃないのかえ?」  ケーキを食べ終え、再び野球に夢中になっていたおばあちゃんが急にぼくの方を向いて言った。 「ちょっと、カッコイイお兄さんて何よ? くわしく話しなさいよ」  ママの声が少し大きくなった。 「ぼくと話してたらおばあちゃんがひっくり返っちゃったから救急車を呼ばないとと思って電話を探したんだけど、ママがいつも使ってるみたいな電話が見つかんなくって。それで外に出て前のお家の人に助けてもらおうと思って飛び出したら、カッコイイお兄さんに衝突したんだ。おばあちゃんが死んじゃうって言ったら救急車呼んでくれた」 「なにその漫画みたいな話、どうしてカッコイイお兄さんがあなたにぶつかるのよ?」 「走ってたんだよ、きっと」 「なんでカッコイイお兄さんがこんなところ走ってるのよ」 「わかんない」 「連絡先聞かなかったの?」 「聞いてない」 「そっか。ちゃんとお礼しなきゃねぇ、またここらへん走ってくるかしら?」 「どうだろう」 「おかあさん、カッコイイお兄さんがお店の前走ってたら電話頂戴」 「まぁた、マサコはそんな事、すき物だのぉ、ふひっ、ふひっ」 「違うわよぉ、ただちゃんとお礼がしたいだけよぉ」 「わかったよぉ、ふひっ、ふひっ、ふひっ」 「じゃ、そろそろ帰ろかな」 「ご馳走になったね、気ぃつけてナ」 「お母さんも、また調子悪くなったらすぐに電話するのよ、あとカッコイイお兄さんが通りかかった時もね」 「わかった、わかった、ふひっ、ふひっ」 「じゃあね、おばあちゃん」 「おう、ケン坊、がんばりぃや、ふひっ! ふひっ! ふひっ!」  ぼくたちはおばあちゃんちを出て車に乗って家へ帰った。
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