グレーを愛すること

「『こうじゃなきゃ』とか『こうするべき』って考えは本当の願望じゃないと思うの。『会社を辞めるべき』って言ってるけど、それは千夏の本心じゃないはず」
「そんなはず……！私、本当に辞め……」
「例えばさ、体調を崩して食欲がなくて、何日もほとんど食べてないとするじゃん？そうなると『流石に何か食べなきゃだめだよね』って思うだろうけど、それって実際『食べたい』って思ってるのかな？」
「…………」
「そりゃ理想はきちんと食べることだろうし、そうしなきゃっていうのは頭ではわかってるんだけど、食欲がないから『食べたくない』んだよね。そんな時に『食べるべき』って無理矢理食べたらどうなる？もっと具合が悪くなったり、吐いてしまったりするかもしれない」

淡々と話す姉の言葉が胸にじんわりと広がる。私の考えを頭ごなしに否定せず、でも優しくアドバイスをしてくれる……。頭の中で何かが変わろうとしている。

「だからね、『こうするべき』=『こうしたい』とは限らないと思うの。千夏のそれもね」
「……けど、私どうしたらいいかわからなくて……。辞めるのか続けるのか迷うのが1番しんどくて……」