プロローグ

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 そこに疑問を差しはさむ者はいない。  ケイトは一枚の紙を卓に置く。そこには文章とは言えない記号の羅列があるが、彼の目線は読み取れているかのようにその列をなぞっていった。 「精製された毒。人工物だ。左前腕に毒の痕跡がある。他にない以上、それが死因だろう。成分も細かく書いてはあるようだが、相変わらず言語化できるようなものではないな。ただ・・・精製されたものである点は前回と同様だが、比較する限り、成分は異なるようだ」 「持ち出したタイミングが違えば成分も変わるみたいだからね。同じものを持ってきたつもりでも。別人が犯人だからか、同じ犯人が別の毒を使ったかまではわからないけど」  ヴィエリーがケイトに続き、そこにさらにザークが続いた。 「ここでも殺人行為はやっぱり敵を作ることになるから、殺したことをばれたくないなら別の毒にするのはあり得るだろうけれど、でも毒の持ち出しがもし見られたらその時点で誰かを殺そうとしていることになる。持ってくるにしてもそうそう何度もあの部屋に出入りはできないし、したくないと思うけどね」 「確かにその通りだ」  区切るようにケイトが言い、自ら話を進める。 「しかし毒の情報だけでは前回の事件の犯人と今回の事件の犯人が別人であると断言まではできない。だが、前回とそのさらに前までの事件で使われていた毒の成分が一致していたことは確かな情報だ。ここで急に別の毒に変わったのは少し気になるところではある。そのうえで」  ケイトが話そうとしていることはすでに全員が予期しているようだったが、構わず続けた。 「例の絵だ。あの絵が現れたことによってわかったのは、『肖像絵師』の描いたモデルの中に今までの被害者がことごとく含まれていた、ということだ。さらに被害者となったモデルの絵は例の絵以外は行方不明。一方でモデルになったが殺されてはいない人物の絵はすべて『肖像絵師』の部屋にあった」  『肖像絵師』によってモデルを頼まれ、描かれた人たちのうち、その絵が紛失している人物が全員毒殺されている。 「この被害者の共通点がわかった直後、今度は『肖像絵師』本人が、それまでとは違う毒によって殺されてしまったというわけだ。偶然とは思い難い」  毒の一致と絵のモデルという手がかりによって一本の線として見えた事件は、どうやらそこまで単純なものでもなくなった。  ふとカルネが小さな笑い声を立てた。 「それまでの流れを誰かが終わらせたのかしら」  愉快そうに口を挟むと、ラルカも同様にして言った。 「そして次の流れが始まったというわけね、お姉さま」  新たな殺人の流れが、というわけだ。  ケイトはそう思いはしながらも、特に口に出すことはなかった。
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