イジンサン、アルデンテ

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   二十一回目の食事で、缶入りミートソースが底をついた。もう白くないカッターシャツで指を拭いて、イジンサンが私にそっと笑いかける。 「今日も、美味しかったでしょ?」  薄暗い部屋、白いダイニングテーブルで、私の「うん」は今日も浮遊していた。十六回目から完食できなくなったひと捻り分のアルデンテは、イジンサンの目にはもう映っていないのかもしれない。  その夜が、私達の宇宙の最後なのだと思った。  食後、手首の結び目のあたりを引っ張って、イジンサンは私を窓際まで歩かせた。その日も星空は綺麗で、その白いドット柄を二人で眺めた。赤い色なんてどこにもなくて、ぶっ壊れる前に戻っている気分になった。 「髪の毛一本分くらい」  イジンサンは、星のひろがる私達の宇宙に向かって、たくさん泣きながらぼんやり呟いた。私に話しているのかも曖昧な声量で、白く溢していた。 「髪の毛一本分、芯を残して」  ◇
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