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母の言うことも、わからないではありません。世間一般のお姫様はもっと可愛らしいし、おしとやかだと知っています。剣を持って馬に乗り、戦場を駆けまわることを夢見るようなお姫様など自分以外に見たことも聞いたこともありません。
でも、人には得手不得手があるし、好きなものと嫌いなものがあるのです。結婚ができないから、なんて理由でそれを封殺されるなど、つるぎひめには到底承服できないことでした。
しかしそれでもつるぎひめはまだ十三歳の少女でしかなく、親の意向に完全に逆らえる年ではありません。本人の意思を無視して、縁談の準備が進んでいました。隣国の第三王子が婿入りする形で話が固まりつつあったのです。
「いいですか、つるぎひめ」
初めて王子様と会う日。お妃様は、つるぎひめに厳しく言いました。
「おしとやかで、女の子らしい女の子でいることを心がけなさい。いつもの男のような言葉遣いは絶対にダメ。ドレスも着替えてはいけないし、足は揃えて座りなさい。走ったり木に上ったりしてもいけません、いいですね!?」
「……はい、お母様」
――ああ、なんて無茶ぶりな。絶対息が詰まるに決まってるじゃないか!私にそんなことできるわけがない、半日ももたせる自信がないぞ!!
つるぎひめはうんざりしながらも、仕方なくお妃様の指示に従いました。作り笑顔を貼りつけ、ふりふりのピンクのスカートのドレスを着て、挨拶をする時にはちゃんとスカートの裾をつまんで。歩く時はゆっくりと歩き、大股でずかずかと走ったりしない、言葉遣いは可愛らしい女言葉で普段より少し声を高くして――エトセトラ。
そんなつるぎひめを、隣国の王様は大変気に入ってくださいました。その後ろの隠れるようにして立っている、まだ十二歳の第三王子の背中を押して言います。
「なんてお上品で美しいお姫様だ!このお方とならば、きっとうちのフィリップも強く逞しい男に成長し、姫君を支えることができるようになるだろう!」
小柄で、少し臆病な様子のフィリップ王子。エメラルドのような美しい緑の眼に、明るい茶色の髪の少年はとても綺麗な顔立ちをしていました。しかし、どことなくおどおどとしていて、落ち着きがありません。緊張しているのでしょうか。王様たちの計らいで、二人はお城の広い広い庭で一緒に遊ぶことになりました。
――ああ、じれったい!本当は、木登りをして、あの綺麗な木の実を見せてやるとか、鬼ごっこをしたりする方が好きなのに!
彼が御花詰みに興味を持ってくれているのはいいですが、正直つるぎひめは退屈です。ああ、いつまで自分はこうしていなければいけないんだろうと、そう思った時でした。
可愛らしい蝶々を追いかけていた、王子様の姿が忽然と消えました。
「王子様!?」
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