つるぎひめのおはなし。

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 このお城は、丁度崖の上に位置しています。つまり、庭の一部は崖に面しているのです。王子様はそこから足を滑らせてしまったようでした。助けて!と声が聞こえます。小さな腕が見えます。どうやら、かろうじて崖の上に引っかかっているようですが、このままでは落ちてしまうのは時間の問題でしょう。この高さ、落ちてはまず命はありません。  つるぎひめは一瞬迷うと――ドレスのスカートの裾を引きちぎりました。あまりにも動きづらかったからです。そして、そのまま歩きづらいミュールを脱ぎ捨て、裸足で崖のところまで走り出しました。嫌われるかもしれない、とか。お母様の言いつけ、なんてものは完全に頭から抜けていたのです。王子様を助けたい、その一心が体を動かしました。 「捕まれ!」  つるぎひめは王子様の手を、しっかりと握りしめました。そして。 「私が絶対に助けてやるからな、その手を離すんじゃないぞ!せえの、で腕に力をこめて踏ん張るんだ、いいな!?」 「う、うん!」 「行くぞ、せえの!」 「せえの!」  つるぎひめは、力強く王子様の体を崖の上に引き上げ、救出することに成功しました。騒ぎに気付いた兵士達、そして王様やお妃様たちが駆け寄ってきます。お妃様はスカートがちぎれ、裸足で泥だらけになっているつるぎひめを見て怒りました。 「まあ、まあ、まあ!なんてはしたない、言いつけを守らなかったのね、なんてこと!!」  しかし。王子様はつるぎひめの手をぎゅっと握ったまま、こう言ったのです。 「あ、貴女は……なんて勇ましく、格好の良い女性なんだ!お願いします、僕を、貴方のお婿さんにしてください。貴女のような女性を、僕は支えられる良き夫になりたいのです……!」  実は。フィリップ王子にも、秘密がありました。  兄さんたちと違って、体力も腕力もないこと。剣や馬の稽古よりも、御花や歌、ダンスの方がずっと好きなこと。本当は、自分も女性達のような可愛らしいドレスを着て見たかったのに、それをずっと言えずに隠していたこと。  男らしさや、女らしさより、自分らしさを。  そして、何より大切な、誰かを守る勇気を。つるぎひめから学び、そして彼女に心からの恋をしたのです。  固定概念にとらわれていたお妃様や、隣国の王様の眼が醒めた瞬間でした。まずは王子様の命を助けたことより、はしたないつるぎひめの姿をみっともなく思ってしまった自分を、心より恥ずかしく思ったのです。 「私で良ければ、喜んで」  七年後、二人は盛大な結婚式を挙げるに至ります。  つるぎひめはタキシードを着て、フィリップ王子はドレスを着ていました。  昔ながらの価値観にも大切なものはあります。でも、それ以上に人が自分らしく生き、心から笑える人生以上に大切なことがあるのでしょうか。  心から愛し合い、互いを尊重しあうことを決めた二人はもう、一番大事なことがわかっています。  つるぎひめとフィリップ王子はそうして、末永く幸せに暮らしましたとさ。  めでたし、めでたし。
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