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つるぎひめのおはなし。
昔々。それはもう遠い遠い昔の、どこか遠い遠い王国。
そこに、一人の王女様が生まれました。
とても可愛らしく美しいブロンドの髪、青い目を持つ王女様ですが、名前がなかなか決まりません。この王国では、女の赤ちゃんも充分跡継ぎ候補です。特に、長いこと子供に恵まれなかった王様とお妃様にとって、その王女様はまさに救世主と言っても過言ではありませんでした。
ゆえに、名前は慎重に決めなければならなかったのですが。
「クリスティーナハロウアロハシロナというのはどうだろうか!」
「却下。あなた、それ娘の将来考えて名前つけてます?長すぎです、呼びつけるたびにそのなっがい名前を毎回呼ばなければいけないんですか?不便すぎるでしょ」
「う、うむ……では一文字削ってクリスティーナハロウアロハシロで……」
「大して変わらんわ!却下!」
「敬語なくなったぞオマエぇ!?……ではナオルクリスティーナで……」
「そもそもクリスティーナって名前があなたの初恋の人だと知ってるので却下でございますわ。死ね」
「ナチュラルに死ねって言った今!?」
まあこんな感じで、王様が提案する名前をお妃様がことごとく却下していくわけです。そりゃ決まるはずもありません。王様の案がしょうもないのに加えて、お妃様もなかなか気難しい人なのです。
赤ちゃんが生まれて三日間。名前が決まらず、国民の発表もできず、家臣達は困り果てていました。しかし、ある日王女様のゆりかごの前で兵士が警備を行っていると、赤ちゃんがキラキラとした眼でこちらを見てくることに気づいたのです。
――うわ、この赤ちゃん超可愛い。ひょっとして俺がイケメンだから見惚れてるのかな!?
なんて兵士は恐れ多くも自惚れたことを考えていました。が、実際赤ちゃんが見ていたのは、兵士の顔ではありません。兵士が腰に差している剣に興味を持ったのです。しかも生まれてたったの三日なのに、さっさとお座りをすると、その小さな手で兵士の剣の柄を掴んで引っこ抜こうとするではありませんか!
兵士は慌てて赤ちゃんに剣を奪われないように制します。が、意外にもこの王女様、赤ちゃんの割にめっちゃ力が強い。しかも、大事な王女様なわけですから、強く押さえつけることもできません。
兵士が困り果てている様子を助けもせずにじっと見ていた王様は、そうだ!と手を叩きました。
「剣に興味を持つとは、なかなか勇ましい子であるな!よし、この子の名前は“つるぎひめ”にしよう!」
お妃様は思いました。さっきまでクリスティーナとかなんとか言ってたのに、そのいかにも日本語の名前はどっから出てきたんだと。
兵士は思いました。名前が決まったのは非常に素晴らしいことだが、とりあえずそこで嬉しそうにしてないで私を助けてくれませんかね、と。
そんなこんなで、その美しいお姫様はつるぎひめ、と命名されました。そして、その名前に相応しい成長をされることになるのです。
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